屋久島 豪雨の記録 7 {ツアー出発}

屋久島 豪雨の記録 7 {ツアー出発}

「おはようございます!」

朝一にお客様と顔を合わせる時、なかなかこうして言語化する事は無いのだが見ている部分はある。

遅刻してこないか、遅刻したとしても急いでくるか否か、どんな格好で来るか{雨具を着て来るか靴ひもを締めているかトレッキングポールをブラつかせていないか等}、そこで登山という行為に対する慣れや覚悟がどうしても見えてくる。

ただでさえ「健脚向け」とされるコースだ。天気という条件が悪い日に行くのにそうでなくとも帰って来れるか不安のある人をお連れする訳にはいかない。
100円均一のビニール雨具なんかを持ってきた人には「本来は準備不足としてお断り{ツアー代返金無し}のところですが、今日は天候による中止{返金あり}という事にしますから」と諭して諦めて貰う。{まぁ、そういう人こそが分かっていないからこそ諦める事が中々難しいのだけども。}

この日のお客様は一目見て「あぁ、行けるな」と思わされた。約束の時間7分前位だったが全員揃って全ての準備がリュックにまとまりホテルのロビーに腰掛けていた。

「昨日の予報ではとても行ける感じでは無かったのですが、今現在予報は完全に外れています。雨雲レーダー予報も・・{見せながら}分かっている限りでは警報クラスの天気にはならなさそうです。」

「ただ、予報よりも悪くなることも多いです。少なくとも今日は一日雨の中の行動になります。お気楽に楽しむための日になるとは思わないで、自衛隊の演習に参加するぐらいのつもりでいてください。やめておくならば、天候による中止として今日のガイド代に関しては返金できますが、如何でしょうか?」

言葉のニュアンスに、決してその選択肢も悪いものでは無い、むしろ楽しむ為に来た筈なのだからその方が自然なのでは?という気持ちも乗せて提案する。
しかし誰も迷った様子は見せなかった。

こうなったらもう覚悟を決めるしかない。

・・また前提の説明になるが、私は旅行会社を経由してツアーに申し込んだお客様を主にご案内する仕事をしている。ツアー代は旅行会社→所属会社→私という順に入り、お客様への返金も旅行会社からお客様へと行われる。
ツアー中止となれば 旅行会社/所属会社/私自身の皆が、ツアー代に関して いわば{くたびれもうけ}となるのだが、その判断は現地ガイドである私個人に委ねられている。
お客様の状態・天気その他の状況はその時/その場にいなければ分からないのだから当然の事なのだが、例えばトムラウシの遭難を引き起こしたアミューズトラベルなんかはその権限が現場にほぼ無かったと聞く。私の場合はそれにあたらない事はご理解頂きたい。

車に乗って、お客様と安房へ移動する。

この時 車の窓越しの景色に感じた悪い予感が、一つだけあった。

安房川の水位が高かった。

「うーん・・大丈夫かなぁ・・」

この二週間ほど前から、この安房川の岸に家族で遊ぶための私有カヌーを二艇置きっぱなしにしていて、{梅雨が来る前には引き上げないと}と思いながらも中々できないでいたもので、だからこそ川の水位に注意が行き、同時に「だから自分は過敏なのではないか」という疑いがそれをかき消した。

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気象庁の記録によるとこの時点では前日からの雷と強風の注意報が継続していたが、問題の大雨/洪水注意報は出ていない。

あの「悪い予感」という無形の念を補完しツアー中止に持って行く要素は今振り返ってもやはり見つからない。

バスに乗り換え登山口へと向かったのだった。

 

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