屋久島 豪雨の記録 11 {水ダバダ}

屋久島 豪雨の記録 11 {水ダバダ}

強い水圧で頭を押さえつけられながら滝の暖簾をくぐり,バケツリレーの三人目と交代する事になった。
その場に来てみて初めて分かったのは、水圧で足元の板・線路のレールと固定された枕木すべて-もろともが轟音の中 荒い振動で揺れていて不穏でしかない。
その二枚の板の上を“要救助者”に歩いてもらわないといけない。板から降りて横の枕木に乗ると瞬時に40cm程滑り落ちて線路わきの水流の中に足をつっこんでしまった。首筋と履いていた丈の長い長靴の中へと水が流れ込んできた。{まぁ、あの豪雨の日にそこに至るまで濡れ鼠でなかったことが逆にあつかましいぐらいの事なのではあるが}
首と肩の付近で斜め上方からの強い水流を受け止め、滝の向こうから押し出されるようにして来た要救助者に対して当たる水流の勢いを殺しながら 腕や肩を捕まえ水幕の外で待つ人間へと受け渡す。
水圧で押さえつけられる事、水幕で視界が無い事もあるので方向感覚を失わない内にサッサと抜けてしまえば良いのだが、前回も書いた通り、本能的にその刹那の安定感を求めて腰を落とし、結果動けなくなってしまおうとする女性が多く、腕なり脇なりを引き上げてグイグイと滝の外に押し出してやる。
押し出した人たちの中には後続のつれあいが出て来るのを待ちながらこちらを携帯やカメラで撮影する人もいた。
「あの動画、テレビに出たりするんやろうか・・?」
ちらりと頭をよぎった。

何人程通しただろうか。モロに水流を体で止めている事もあり結構寒くなってきた。到着した時には最後尾だった自分のお客様も通してその後20人ぐらいは通したと思うが、次々下山者が来ているようで最後尾は見えてこなかった。

誰だったろうか、一度登山口まで下りたガイドが戻ってきて滝の轟音の中にいる自分たちに向けて叫んだ。
「バスが止まってる!通行止めでしばらくはこれないらしい・・・替わろうか?」
体温低下の意味でもリスク分散の意味でも替わりたい。しかし先頭で一般客を滝に引き入れているガイドたちは最初から続けている。彼らが先だ。水しぶきの中 作業を続けながら「彼ら」に向けて叫ぶ。
「もう寒いでしょ!こんなの替わりながらやった方が良い、一人来たから替わったら?」
「いや、手順がつかめて来たし、このまま全員通してしまった方が良いって〇さん{先頭のガイド}と言ってて、このままやります!」
自分の顔がどうだったのかは分からないが、彼の唇は端が青ばんで見えた。
だから替わった方が良いと、いくらかやり取りをしたが、気は変わらなかった。
「じゃ、俺替わって貰うね。無理しない様に!」

気にはなるが自分がいないと回らない状況でもない。十分にやった。後ろからも次々ガイドが下山してきていたし崩れない限り大丈夫な筈だ。登山口まで下りると色々噂が聞こえてきた。
どうやら車道が寸断されており、通行できない状況らしい・・
オイオイ、帰りたい。
徐々に情報が入ってきた。
「雨が止むのを待って崩れた道路を補修して通すらしいけど、どうも今日中は無理らしい・・」

オイオイオイオイ・・・登山口での一泊が決定したのだった。

 

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